楽しさの条件

楽しさの条件

ある少年がテニスを習い始めたとします。彼が最初に直面する課題は、「ボールをネットの向こう側に打ち返すこと」です。これは非常に難しいわけではありませんが、彼のごく初歩的なスキルにはちょうどよい難しさであり、そのため彼はこの活動を楽しむことができます。このようなとき、人は集中し、夢中になり、いわゆる“フロー状態”に入っているといえます。


しかし、この状態がずっと続くわけではありません。しばらく練習を続ければ、アレックスのスキルは自然と上達し、やがて「ただ打ち返すだけ」では物足りなくなって退屈を感じ始めるでしょう。または、より強い相手とプレーすることになれば、まだ十分なスキルがない彼にとってはその挑戦が大きすぎて、今度は不安を感じるかもしれません。


退屈も不安も、どちらも快い状態ではありません。そのため、アレックスは再び夢中になれる、つまりフロー状態に戻ることを自然と求めるようになります。では、どうすればそれが可能なのでしょうか?


もし退屈しているなら、彼はより難しい目標に挑戦する必要があります。たとえば、自分より少しだけ上手な相手と対戦するなどです。挑戦のレベルを上げることで、彼のスキルとちょうど釣り合い、再びフローの状態に入ることができます。


一方、不安を感じている場合は、自分のスキルを高める必要があります。練習を重ねて能力を伸ばせば、今まで難しすぎた課題も「ちょうどよい挑戦」になり、こちらもまたフローの状態に戻れます。


このように、人は「飽き」や「不安」をきっかけに、自分のスキルを伸ばしたり、新たな課題に挑戦したりするようになります。そしてその結果、より複雑で深いフロー体験が得られるようになるのです。


ただし、その新しいレベルの活動も、ずっと続けていればまた退屈や不安に変わっていきます。だからこそ、フロー体験は一つの場所にとどまらず、常に「次のステップ」を生み出す成長と発見のプロセスでもあるのです。